こんにちは、ヤツPです!
前回は「売上」や「原価」を中心に、PL(損益計算書)の上半分──“儲けの材料”がどう積み上がるのかを見てきました。
今回は、そのちょうど中腹にあたる「営業利益」と「経常利益」に注目します。
営業利益は「本業で稼いだ力」を示す数字。一方で、企業は銀行からの利息収入や投資収益、あるいは借入金の利息や為替差損など、本業以外でもお金が動いています。こうした“本業以外の常連メンバー”を加減して出すのが経常利益です。

営業利益は“本業勝負”、経常利益は“総合力勝負”なんだ
この二つの違いを知っておくと、企業の安定性や稼ぎ方のクセが見えてきます。それでは、PLの中腹を解剖していきましょう。
営業利益(再確認)
営業利益は、売上総利益(粗利)から販管費(人件費、家賃、広告宣伝費など)を引いた残りです。
簡単に言えば、「本業でどれだけ効率的に稼げたか」を示す指標です。
医療業界での目安として下記となります。
- 製薬会社(新薬開発型):営業利益率 10〜20%程度
- 調剤薬局チェーン:営業利益率 大企業 2~10%、中小・中堅企業 7〜15%程度
- 病院(民間):営業利益率 0〜2%程度(医療報酬制度の影響が大きい)



薬局の営業利益が低めなのは、薬価と人件費のバランスが厳しいからなんだね
営業利益が高いほど、売上から利益として残る割合が大きく、本業の競争力が高いといえます。ただし、業界ごとの構造的な差があるため、単純比較は禁物です。同業種の平均と比べるのが鉄則です。
経常利益とは?
経常利益は次の式で表されます。
経常利益 = 営業利益 + 営業外収益 − 営業外費用
意味としては、本業の力に加えて、金融・投資活動など日常的に発生するお金のやりくりも含めた“総合的な稼ぎ力”を示す数字です。
経常利益を見る意味はあるのか?
結論から言うと、あります。なぜなら、企業の安定性や財務体質を読み取れるからです。
- 営業利益が安定していても、借金の利息負担(営業外費用)が重ければ経常利益は大きく減る
- 本業が低調でも、投資や金融収益(営業外収益)で補っている場合もある
- 外部環境(為替・金利)に左右されやすい企業かどうかが分かる



経常利益は“企業の普段の総合力”を測る検査結果みたいなものですよ
経常利益は、企業が“本業だけでは語れないお金の流れ”まで含めた成績表。特に、金融市場や海外との取引が多い業界では重要度が高まります。
営業外収益とは?
営業外収益には、受取利息、配当金、有価証券売却益などがあります。
たとえば製薬会社が余剰資金を運用して株の配当を得た場合、それは営業外収益に計上されます。



ワシの発明品の特許収入もここに入るんかのう?



博士、それ博士にとって本業だから営業収益に入るよ…。
営業外費用とは?
営業外費用には、支払利息、為替差損、有価証券評価損などがあります。
借入金が多い企業や海外取引の多い企業は、ここで利益を大きく削られる可能性があります。



借金が多ければ、その分ここで利益が削られるのよ
営業外の収益・費用から見えること
ここは、企業の“裏の顔”を覗けるパートです。
- 営業外収益が多い → 投資や資産運用に強い
- 営業外費用が多い → 借金依存、為替リスクが高い可能性
- 変動が大きい → 本業以外の影響が強く、安定性に課題あり
営業利益より経常利益が高い企業は、本業よりも投資・金融活動で稼いでいる場合があります。逆に経常利益が営業利益より大きく減っている場合は、借金の利息や投資損失が重荷になっている可能性が高いということですね。
実際の企業で見てみる
まずは、日本調剤とアインHDの調剤チェーン企業を見てみます。()は対売上比率を表しております。
会社名 | 売上高 | 営業利益 | 営業外収益 | 営業外費用 | 経常利益 |
---|---|---|---|---|---|
日本調剤 (2025/3期) | 約 3,605億円 | 約 62.4億円 (1.73%) | 約 22.7億円 | 約 15.9億円 | 約 69.2億円 (1.92%) |
アインHD (2025/4期) | 約 4,568億円 | 約 168.7億円 (3.69%) | 約 20.7億円 | 約 8.6億円 | 約 180.8億円 (3.96%) |
営業利益率を見ると、アインHDは日本調剤の約2倍と効率的に稼ぐ力がありますね。経常利益率でも同様の傾向が見られますが、どちらの企業も経常利益(率)が営業利益(率)を上回っており、金融収益や投資益での積み増しが予想されます。
続いては、ドラッグチェーン企業の2社の例となります。
会社名 | 売上高 | 営業利益 | 営業外収益 | 営業外費用 | 経常利益 |
---|---|---|---|---|---|
サンドラッグ (2025/3期) | 約 8,018億円 | 約 444.96億円 (5.55%) | 約 7.91億円 | 約 17.31億円 | 約 438.35億円 (5.47%) |
スギHD (2025/2期) | 約 8,780億円 | 約 42,563百万円 (4.85%) | 約 5,242百万円 | 約 5,812百万円 | 約 41,993百万円 (4.78%) |
営業利益率は、どちらも約5%となっており、日本調剤やアインHDより効率的に稼ぐ力が高いですね。一方で、経常利益(率)と営業利益(率)を比較すると、どちらも営業利益(率)の方が高く、投資などの副次的活動がマイナス寄与していると推測されます。
上記4社についてもそうですが、M&Aにおけるアドバイザリー費用の計上方法や持分法投資損失等といったことが加味されるケースもあるなど、実際に詳細を確認する必要があります。
とはいえ、本業の稼ぐ力がどの位か、総合力ではどうかと、大枠をまずは把握することはその企業を見る上で重要となります。
さいごに 経常利益は“稼ぎ方のクセ”を映す鏡
営業利益は「本業の稼ぎ」、経常利益は「本業+金融・投資の総合力」。
経常利益をチェックすることで、その企業が安定して稼げる体質か、外部要因に振り回されやすいかが見えてきます。
薬学生のうちからこの視点を持っていれば、将来の職場を選ぶときに数字を武器にした判断ができるようになります。特に医療・製薬業界は利益率の幅が大きいので、同業種との比較が必須です。
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